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相続開始後に預金を下す方法

2023年04月12日

凍結された相続人の預金の解約手続きについて解説します。

目次

1.口座名義人がなくなるとどうなるのか

2.凍結された口座の相続手続

3.遺産分割協議書の作成

4.遺産分割協議ができなくなるケース

5.遺産分割協議をしなくても預金の払い戻しができるようにするには

6.まとめ


1.口座名義人が亡くなるとどうなるのか

 相続が発生した場合、亡くなった方の預金口座については、金融機関は凍結をします。

 しかし実際のところ、預金口座を持っている方が亡くなった場合、金融機関がその事実に気づいていなければ口座は凍結されることはありません。ですので、ご家族が暗証番号を知っていれば、キャッシュカードで下ろせてしまいます。

 もちろん、金融機関にご家族から死亡した旨を連絡すると、口座は凍結されてしまいます。

 ただし、相続人間でもめている場合や、キャッシュカードがなかったり定期預金である場合は、相続手続を踏まないと預金の解約等ができません。

2.凍結された口座の相続手続

 各金融機関によって必要な書類は異なる部分はあるのですが、共通するものとして

 ①遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)

 ➁相続人全員の印鑑証明書

 ③相続関係を証明できる戸籍謄本一式

  ㋐被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本・改正原戸籍・除籍謄本など

  ㋑被相続人の住民票除票(本籍地の記載があるもの)※金融機関によりますのであらかじめ確認してください。

  ㋒相続人の戸籍謄本(抄本でも可)ただし、被相続人が死亡した後に取得したもの

  ㋓相続人の住民票(本籍地の記載があるもの)※金融機関によりますのであらかじめ確認してください。

  ㋔相続人の印鑑証明書(不動産の名義変更には期間制限はありませんが、金融機関によっては相続発生後3か月、6か月等の期間制限を設けている場合が多いです。)

が必要となります。

 上記記載は、配偶者と子供が相続人になったケースです。代襲相続人、直系尊属、兄弟姉妹、甥姪が相続人になる場合には、さらに複雑な戸籍を取得るることになりますので、詳しくは専門家に相談することをお勧めいたします。

3.遺産分割協議書の作成

 亡くなった方の氏名・生年月日・本籍地などで、ご本人であることを特定し、亡くなった日付を記載し、相続人間で遺産を分割することを協議した旨を記載します。

 不動産は、「不動産登記簿」を参考にして記載いたしますが、今回は預金についてですので、預金の記載方法を解説いたします。

 (記載例)

  「第〇条 次の預金については、長男〇〇が相続する。

    ○〇銀行 ○〇支店 普通預金 口座番号123456

    ゆうちょ銀行 普通預金 記号○〇 番号123456」

 金融機関名・支店・口座種別・口座番号で特定し、残高については記載する必要はありません。

4.遺産分割協議ができなくなるケース

 遺産分割協議書は、相続人全員によって行わなければ、その教義は無効になります。ですので、相続人全員の参加が要件の一つとなるのですが、実務上、これができない場合を見てきました。

 ①連絡が取れない相続人がいる(失踪宣告、不在者財産管理人選任などで対応)

 ➁相続人に認知症等で判断能力がない人がいる(成年後見人を付けることで対応)

 ③相続人同士で遺産の分け方について話がつかない

 ④思いもよらない相続人がいた(このいない夫婦の場合の被相続人の両親・兄弟姉妹、前婚の時の子供)

などが挙げられます。特に③は、紛争性が強い場合、弁護士対応となります。

5.遺産分割協議をしなくても預金の払い戻しができるようにするには

 こちらは、亡くなられた方の生前の対策になるのですが、遺言書の作成が挙げられます。遺言書があれば、相続人全員の遺産分割協議なしに、預貯金の相続手続きができます。

 (自筆証書遺言書の記載文例)

 「第〇条 遺言者は、遺言者の有する次の預貯金を遺言者の妻〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。

  (1)○〇銀行 ○〇支店 普通預金 口座番号123456

  (2)ゆうちょ銀行 普通預金 記号○〇 番号123456

  第〇条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として前記〇〇を指定する。遺言者は、遺言執行者に対し、預貯金その他の財産の名義変更、解約及び払い戻しの権限を授与する。」

 ポイントとして、民法1014条第3項の規定(特定財産に関する遺言の執行)

 「前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。」

とされているのですが、包括的遺言(全財産を〇〇に相続させる)の場合には、遺言執行者に具体的にどの権限を付与するのかを特定しなければならないため、権限の内容を記載しておくことが必要です。また、相続人じゃない方に遺産を承継させる場合にも、民法1014条第3項の規定の適用はありませんので、権限の具体的内容の記載が必要となります。

※念のため、記載しておいた方が確実です。

 自筆証書遺言の場合ですと、相続が発生後に家庭裁判所の検認手続きが必要になります。(法務局に保管している場合には検認手続きは不要です。)一方で、公正証書遺言書は検認が不要ですのでスムーズに手続きをすることができます。

6.遺言書で指定した遺言執行執行者がすべきこと

 ①遺言書の内容を相続人に通知(民法1007条)

 ➁相続財産目録を作成し、相続人に交付

 ③具体的な遺言内容の実現(預金解約、相続登記、有価証券の解約等)

  ※よく質問がありますが、遺言執行者が相続登記やその他手続きを実施にする必要はなく、専門家に依頼することで手続きを進めれば大丈夫です。亡くなった本人の代わりに代理人を使って手続きをすることも可能です。

 ④相続人に、任務が完了した旨、経過と結果の報告

をしなければなりません。

7.まとめ

 被相続人の預貯金をスムーズに下すために

 ①公正証書遺言書を作成し、預金の帰属先を決めておく

 ➁遺言書の中で、遺言執行者を指定しておく

ことが重要です。

 今回は、預貯金について解説をして敷きましたが、不動産についても同じことで、帰属先を遺言書で指定しておくことで、遺言書がない場合に遺産分割協議がまとまるまで帰属先が宙に浮くことはありません。(法定相続分での帰属は確定しているのですが、登記申請が2つになってしまいます。)

 遺言書作成の検討をしてみてはいかがでしょうか。